骨盤の周囲、お尻が痛いという患者さんは意外と多いです。
骨盤は、背骨の真下が仙骨、それが二つの腸骨に挟まれる形で、三つの骨からなります。
そして仙骨と腸骨のつなぎ目が仙腸関節(上写真の赤いライン)です。左右二箇所あります。
ここは、上半身の重さが骨盤に乗ってきて、それが左右の脚に分かれていくところの関節なので、結構な力がかかっています。そのため、ここを支えるお尻の筋肉は痛くなりやすい場所です。
特に妊婦さんの場合はやはり通常の状態ではないので、どこかが痛いというのは出やすいですし、お腹が大きくなるにつれ、痛いところが移動していくことも多いです。
そして肩や背中・腰が凝るなど、あちこち痛みを訴えることが多いですが、中でも特徴的なものとして、お尻が凝るとか痛いとかが多くなります。
こうした症状はやはりある程度お腹が大きくなってきてから出てくることが多いように思います。
痛みの出るメカニズムとしては
「骨盤は仙骨と腸骨からなっており、普段は靭帯でしっかりと結びついている。体の重さは仙骨→腸骨→股関節→脚と伝わって、しっかりと支えられているが、それはこの靭帯の結びつきが非常に強いからである。
妊娠するとホルモンの作用で靭帯が伸びて骨盤が徐々に拡がってくるが、緩い靭帯のままでは体をさせられないので、骨盤周りのお尻の筋肉が緊張することによってそれをカバーしようとする。そして筋肉の緊張状態が続くと血液の出入りが悪くなり痛みになる。」
と考えています。
ただし、お尻の凝りは妊娠のかなり初期からも出てくることがあるので、上の推測のようなのではなくて、ホルモンの影響かもしれません。
いずれにせよ、妊娠中のお尻の凝りはよく起こります。ですので、別にヘルニアとか関係ありませんから心配しなくても良いです。
いくつかの例を挙げてみます。
①妊婦さんで、もうすぐ4ヶ月の方。
3ヶ月に入るころから右のお尻の仙腸関節部が痛くなり始めたそうです。右のお尻の筋肉にハリがありました。
場所はお尻でもやや横の辺りというのでしょうか。お尻の筋肉というと、大殿筋・中殿筋・小殿筋・梨状筋とありますが、そのうち中・小殿筋は特に緊張する箇所です。
中殿筋、小殿筋は写真の水色のあたり。骨盤部お尻の上のほう。
上に書いた通り、妊婦さんでお尻が凝るとおっしゃる方が非常に多いです。
妊娠してお腹が大きくなるにつれ、骨盤も拡がりますが、この時骨盤の骨同士をつなぐ靭帯はゆるみます。
ゆるんだ靭帯の分を周りの筋肉がカバーするので、お尻が凝るのです。
なのでこの場合も腰椎と骨盤のゆがみを矯正して、お尻の筋肉をよくほぐす必要がありました。骨盤に左右の差が大きく、右の腸骨の癖が強かったのが痛みの原因だったようです。
②先日も右のお尻の痛みから始まって腰や太ももの裏にまで痛みが広がってきたという妊婦さんを見ました。
見てみますとお尻の筋肉と腰の筋肉とに強い張りの箇所がありました。太ももの裏側はそうでもなかったので、お尻の筋肉の緊張による痛みが太ももに広がったのでしょう。
こうした場合、大抵左右のどちらか一方の症状です。人間だれしも左右どちらかに多少なりとも体重をかける側があるので、その側が疲れやすいものなのです。
お尻の筋肉群のうち、今回は梨状筋(お尻のくぼみのところ、写真の赤ライン)に強い張りがありました。
ここが張るとお尻だけでなく太ももの裏にまで痛みが拡がる感じが出やすいのです。
ちなみに腰は腰方形筋という奥のほうの筋肉に強い張りがありました。ここは姿勢を維持しているインナーマッスルで、お尻に痛みがある体を支える際に疲労したのでしょう。
これら筋肉を入念にゆるめたところ、かなり症状が治まったようです。
セルフケアとして有効なのは
・温める(蒸しタオルなど)
・ストレッチする。
ストレッチは有効なのですが、お腹が大きくなるとつかえてやりにくいかもしれません。
仰向けに寝て、ゴルフボールやテニスボールをお尻に当てて1~2分ほどごりごりやってもいいです。
ボールだとお尻のお肉に阻まれてここだというところに届かないようなときはフォームローラーなど使ってみてください。
あとは、冷やさず、よく温めましょう。
妊娠中は時々こうした痛みが出て、場所がちょこちょこ移動したりすることがあるのですが、仕方がないと放置しないでその都度対処しておくことが慢性化を防ぎます。
③産後のお尻の痛みについて。
産後もお尻の痛みが出ることが多く、妊娠中から継続するものもありますが、産後から出てくるものもあります。
産後数か月してから出てくるものは、お子様の抱っこが続いたため、腰の下のほうの骨盤の上、お尻あたりが痛むということが非常に多いです。
場所は写真の水色のあたりで、歩いたり動くたびに痛むようで、中にはびっこを引いて歩いていらっしゃった方もいます。体重がかかると痛むのです。
ここは①の症例と同じく中殿筋もしくは小殿筋という筋肉。立っている時には必ず使っている筋肉です。例えば麻痺すると片足立ちができなくなるような箇所。
痛む箇所を押してみるとわかりますが、痛くない側と比べて硬くなっており、押されると痛みが走ります。
この筋肉が非常に緊張して、力がかかるたびに痛みを発生させているのです。
このような場合はこの個所を念入りにほぐしてゆるめ、骨盤の調整をして負担がかかりにくいように戻すと、痛みはなくなっていきます。
先日びっこを引いてこられた方がいらっしゃいましたが、初回の施術で6割方痛みはなくなり、その1週間後に2回目の施術を行って、終わった後にはほぼ痛みはなくなっていました。
人は誰しも無意識のうちに体重を左右のどちらかに多くかけていますので、体重のかかる側は痛みが出やすいものです。
さらにお子様の抱っこにも抱っこしやすい側がありますから、それらが重なって片方への負荷が大きくなると痛みにつながってしまうことがあります。
抱っこするときもできることなら同じ側でばかり抱っこしないほうが良いですね。
寝る時も痛い側は上にした方が楽なことが多いです。同じ側ばかり下にしていると、そちら側の血行が悪くなり痛くなりやすいです。
なので添い寝には注意が必要です。
当院のストレッチ動画です。ご参考になれば幸いです。