妊娠中と0~1歳のお子様を持つママによく起こる腰痛と対処法

Back pain during pregnancy and after childbirth

 「産後の抱っこなどが腰痛の原因」

 妊娠中から産後にかけて腰痛に悩まされる方のママのお話をよく耳にします。なぜ腰痛になりやすいのでしょうか?

 「妊娠中の体は?腰は?」


 妊娠しますと、骨盤を結びつけている靱帯をゆるめるリラキシンという女性ホルモンの分泌が増えます。そのホルモンのおかげでお産の際には骨盤が拡がることができます。


 ですが、その分恥骨のつなぎ目(恥骨結合)や仙骨のつなぎ目(仙腸関節)がゆるくなり骨盤は不安定になります。すると体を支えるため腰回りやおしり周りの筋肉に負担がかかり、通常時以上に力が入り緊張します。

恥骨結合

骨盤を前から見た時、真ん中のところが恥骨結合。

仙腸関節

骨盤を後ろから見て、赤いラインのところが仙腸関節。

 妊娠出産でこれらの箇所が拡げられます。


 さらに、お腹が徐々に大きくなってくると腰が反る状態になります。腰の筋肉がギュッと縮められ緊張しているところにさらに体重の負荷がかかるので痛みが出てきます。中年太りのおじさんの腰痛に近いですね。


「筋肉が痛みを出す?」


 筋肉は伸び縮みすることによって、酸素・栄養を含んだ新しい血液を取り入れ、老廃物を含んだ古い血液を外へ出します。

 しかし長時間負担がかかり続ける、同じ姿勢を強いられる、何度も同じ動作を繰り返すような状況では筋肉が伸び縮みしないため血液の出入りが減り酸素が入っていかなくなり(虚血状態)ます。

 そこでその状態をなんとかしなければというサインとして痛みの物質が発生するわけなのです。


 このように妊娠中から腰痛が起こりやすい状況になるので、元々腰痛持ちだった方は要注意ですね。


 さらに出産直後、骨盤がゆるいうちにすぐに動き回ってしまうと、やはり腰や骨盤周囲に負担がかかるので腰痛を悪化させる恐れがあります。



「産後の腰はどうなっている?」


 産後しばらくすると、出産直後の骨盤の不安定感は徐々になくなってきて、数週間で治まってきます。でも赤ちゃんがお腹にいたときの分の負荷からは解放されるものの、見た目は下腹がぽっこり、腰は反ったままになっていることが非常に多いのです。


 というのも妊娠中から産後しばらくは体を動かすことが減るため、骨盤を支えているお腹の奥の筋肉「腸腰筋」が弱くなってしまって、正常な位置で骨盤が支えられていないためです。

 妊娠前からスポーツなどで体をよく動かしていた方は別ですが、そうでなければ現代人は筋肉が弱いことが多いのです。



「骨盤を支える腸腰筋」


 「腸腰筋」というのは腸骨筋と大腰筋という2つの筋肉を合わせた呼び名で、腸骨筋は骨盤の左右の腸骨の内側から大腿骨の付け根内側に、大腰筋は一番下の胸椎と腰椎から大腿骨の付け根内側にそれぞれつながります。 この2つの筋肉が胴体部分と下半身をしっかり結びつけていることで、骨盤がよい位置で支えられるのです。


 さて、産後この腸腰筋が弱ったまま、つまり下腹がぽっこり、腰が反った状態で赤ちゃんの抱っこが始まります。 抱っこをすると必然的に赤ちゃんをお腹の上に載せる形になりますから、反り気味の腰をさらに反らす形になりますが、これが長時間続き、さらに赤ちゃんの体重が増えてくると腰への負担がどんどん大きくなります。


 さらに、屈んで抱え上げたり下ろしたりなどの動作が繰り返されると腰への負担がますます増え、その結果腰痛が発生するのです。


 赤ちゃんが夜中何度も起きたりすることで睡眠不足になり、体が十分に休まらなかったりすることも痛みを出やすくする一因になります。

 例)産後2か月のママさん、腰痛でご来院。

 寝ている時に寝返ろうと腰を浮かせると痛みが走るとのことでした。

腰を浮かせる

体勢的にはこんな感じですね。

 痛むのは腰の一番下で骨盤との境目あたり。

腰痛の多い場所

 模型で言うと星のマークのあたり。一番体重がかかるところですので、お子様の抱っこが多いと、このあたりの筋肉が硬くなってきます。

 この個所の筋肉の緊張をゆるめ、さらに骨盤と背骨の調整。

 これを週に一度、計3回の施術で痛みは治まり、その後も痛みがぶり返したりしないように継続して通っていただいています。




「まず自分で出来る対処法は?」


①弱った腸腰筋を引き締めて復活させる簡単な引き締め運動

 仰向けに寝て、反っている腰の骨を床に10秒くらい全力で押しつける。やりにくい場合は膝を立ててもよい。

 これを一日一回寝る前に行う。また、腰を反らすと痛むときに行うのもよい。

 ※この運動についてはこちらもご覧ください)



②縮んだ硬くなった腰の筋肉のストレッチ

 正座をして上体を前にかがめていく。腰が伸びて気持ち良い程度で。脱力して1分半から2分ほどキープ。


③痛いときは骨盤ベルトを使う

 腰が痛む場合はもちろん、股関節、恥骨、仙骨、おしりなどが痛む場合にも有効。ベルトが緩んだ骨盤の靱帯の代わりに支えてくれるので負担が減ります。正しい位置に装着することが重要です。


④よく休ませる

 骨盤の状態は2~3ヶ月かけて徐々に自然に戻っていきますが、まだ骨盤がゆるい状態で動き回ってしまうと骨盤に変な癖がついてバランスを悪くさせてしまう恐れがあります。


⑤楽な体勢で寝る

 就寝時ベッドに仰向けになると腰に隙間ができてつらいと感じるなら、その隙間にタオルなどを入れるか、膝を立てて寝る、もしくは横向きで寝るのが良いでしょう。 とにかく一番楽な体勢をさがして休むことが大切です。


⑥腰を冷やさず温める

 痛くなっている筋肉は血行不良を起こしており、冷えるとそれがより酷くなります。腰の下の方や仙骨のあたりを蒸しタオルで温めるのも有効です。


 ※カイロの張りっぱなしは低温やけどになる恐れがあるのでおすすめしません。



 赤ちゃんの世話や上のお子さんの世話が忙しいと自分のケアがどうしても後回しになりがちです。日によって痛みの度合いが違ったりすると、楽な日にはまあいいかで済ましてしまいがち。


 でもそのまま痛みを我慢していると、どんどん症状が悪化し慢性化して治りにくくなってしまいます。痛みをそのままにした結果、おばあさんになっても産後の腰痛をずっと引きずっている方もいらっしゃるぐらいなんですよ。


 産後の腰痛があまりに続くようなら、まずはしかるべき医療機関を受診することをおすすめいたします。

 そのうちよくなるだろうと放置せず、深刻な状態にならないよう早めに何らかの処置をしておくことが慢性化を防ぐことにつながります。

症例)赤ちゃん連れの方がお越しになり、腰から足までの背面が痛いという方

 腰からお尻、太ももの裏、ふくらはぎまでという広い範囲。

 神経症状によるものも考えられるのですが、僕はそれよりもまず筋肉の緊張によるものを考えます。


 筋肉が凝って痛みが出ることがほとんどですからね。凝っている筋肉を押すと痛みが出るからすぐわかります。

腰から足まで後ろ側の張り

腰の筋肉(赤)・・・脊柱起立筋群、腰方形筋など

お尻の筋肉(青)・・・大殿筋、中殿筋、梨状筋など

太もも裏の筋肉(緑)・・・ハムストリングス、半腱様筋・半膜様筋

ふくらはぎ・・・腓腹筋、ヒラメ筋

 この方の場合はこれら筋肉がどこも張っていました。


 おそらくはお子様の抱っこによっての疲労が爆発したのではと思われました。

 抱っこの際には腰をやや反らせて下腹部にお子様を載せる形になり、重心が後ろにくるのを下肢全体の後ろ側で支える形になるためです。


 そのため初回の施術でこれら腰から足までの背面の筋肉を念入りにほぐしてゆるめ、腰と骨盤を調整し、終わった時には痛みが減ったとのことでした。


 その翌週に2回目の施術。初回施術の翌日筋肉痛のような感じになったが、今は楽になっているとのことでした。初回にかなりほぐしたので疲れが出たようです。

 初回時よりもやや控えめにほぐして、腰と骨盤を調整しました。


 その1週間後に3回目の施術。ご来院の時点でもうあまり痛くなくなっていますとのことでしたので、さらに控えめにほぐして、腰と骨盤を調整して終了いたしました。


 疲れを我慢して溜め込んでしまうと、ある時一気に爆発することがあります。

 時々こういう調整を行って、疲れを溜め込まないようにしておくと、大事にならずに済みますよ。




(2017年5月ブログ記事、2018年11月ブログ記事、2019年9月ブログ記事に加筆修正)