前屈や後屈などの動作による痛みの原因箇所の違い
通常腰が痛いというとき、まずは腰の筋肉が凝っているのだろうということになります。
このときの腰の筋肉というのは脊柱起立筋群を指します。
腰が痛いときにこの脊柱起立筋(写真で赤色のところ)が凝っていないというのはあまりないですね。
なのでここはたいてい何かしらの形でほぐしたりしてゆるめることは行います。
ただここだけではよくならない腰痛もあり、それは動作によって出る痛みやその箇所から原因の箇所がいくらかわかるのです。
「前に屈むと痛い場合」
前に屈むと腰が痛い、痛くて前に屈めないという場合、腰の深層筋や腹筋の過緊張が見られます。
腰の深層筋というと腸肋筋や腰方形筋の過緊張が多いです。特に腰方形筋にはトラブルが出やすいです。「少し屈んだ時に痛い」というのがそうです。
肋骨の下から骨盤につながる、腰の深層の筋、インナーマッスル。
少し前に屈む、体を横に倒す、ような時に特に痛みます。
骨盤の上のほうに痛みを感じることが多いです。
ここは必ずチェックするポイントです。
触った感じだと、わき腹から背骨へ向けて真横から押すと痛い所があります。このあたりもチェックしてみて、痛い場合はやんわりと押したり揉んだりしてみてください。
次に過緊張により腰に痛みを出す腹筋というと
●腹直筋 割れた腹筋にあこがれるというやつです。誰でも分かりますね。
背中と腰の下のほうに痛みを出しやすいです。
●腸腰筋 腸腰筋は、腰の骨から骨盤を抜けて大腿の一番上につながっている筋肉。
膝を持ち上げる時に使います。骨盤の位置を安定させている筋肉。
お腹の奥のほうにあります。
腸腰筋は骨盤の内側あたりですね。
大腰筋が過緊張している時は、ウエストの骨盤の骨の出っ張り(上前腸骨棘)とお臍の間辺りを押すと痛い所(トリガーポイント)があります。
腸骨筋の過緊張であれば、骨盤の骨の内側あたりに、押すと痛い所(トリガーポイント)があるでしょう。
ここが過剰に緊張してくると腰や脚の付け根に痛みを出しやすいです。足が前に出ないとか、膝を持ち上げられない感じですね。
「靴下を履くときに痛いとか、椅子に座っている状態で体を前に倒すと痛い、しゃがむと腰が痛い、靴や靴下を履くのがつらい」という時も同様にが上の腸腰筋の過緊張が考えられます。
腹直筋や腸腰筋が緊張していると、腹筋に力が入ると腰が痛いものです。
まず、深く前に屈むと腰が痛い場合は腹筋を疑ってみてください。ちょっとおなかをあちこち押してみましょう。痛い点(トリガーポイント)は無いですか?あったら筋肉が緊張している証拠です。
腰が痛いのに伴って、下腹部や股関節がつっかえるような感じがすることも多いです。この感じがあれば、腸腰筋が犯人だというのはほぼ断定できます。
暴飲暴食に注意し、お腹を冷やさないこと、湯たんぽをお腹にあてるなんかもいいかもしれませんね。
緊張した筋肉は伸ばして緩めるのが良いですが、ここで注意していただきたいのは、腹筋を伸ばそうとすると、おのずと体を反らす体勢をとることになりますので、これはこれで腰がつらいかもしれないということです。
体を反らしてお腹を伸ばすのがつらくなければ、体が一番楽だと感じる範囲で伸ばしましょう。
反らすと腰がつらいなら、無理に行わず、仰向けに寝て、お腹の押して痛いところをやんわりと押すのが良いでしょう。あくまでも痛気持ちよい程度で。目安は90秒。痛くなくなったら離して良いです。
そしてお腹・腰を冷やさず、よく温めましょう。
当院のストレッチ動画もご覧ください。ご参考になれば幸いです。
上をふまえて、
症例1)屈む動作が多かったための痛み
ちょっと前になりますが、小学校の先生をなさる方が腰痛で来られました。運動会ではずっと屈んで徒競走の着順を見ていた&翌日は登山遠足の下見というハードスケジュールだったそう。先生はやっぱり大変です。
屈むという動作は腰の筋肉に特に負荷がかかる動作。ぎっくり腰なんかになるとよくわかりますが、前に屈もうとしても痛くて屈めません。おじぎぐらいの角度が一番つらいのです。
これはてこの原理でおじぎの体勢が上半身を支えるのに一番負荷が大きくなるからで、理論的には90度の時がいちばん力がかかるのでしょうが、実際はそこまで曲げれば脱力すると体がだらんと前屈しますから、やや深いおじぎぐらい曲がるときに一番腰に力がかかるというわけなのです。
腰に力を入れてなければ負荷がないので、完全に脱力して前屈した状態であれば痛くのです。
腰痛の時に「屈むのがつらい、靴を履くのもつらい、でも真っ直ぐ立ってしまえばなんとかなる」っていうのはそのためですね。
症状は右にありましたので、当然右の脊柱起立筋と腰方形筋に強い張りがありました。
腰方形筋は姿勢を維持するインナーマッスルで屈んだりする際に体を支えている箇所。長時間屈んだ姿勢を続けたため強く緊張し血行が悪くなってしまい痛みが出たのでしょう。
さらに、骨盤でいうと仙腸関節という箇所に負担がかかり、ここの動きが悪くなっていました。
これら筋肉を入念にゆるめ、骨盤の可動性を調整しましたところ症状がかなり改善したようです。
ちなみに、長時間しゃがんでいると腰が痛くなることがありますが、このような時はお腹の奥の腸腰筋が強く張っていることが多いですね。
腰痛の際には痛い動作や姿勢をなるべく避けて、楽な体勢で休むのが良いです。無理はしないほうが良いです。
症例2)椅子から立ち上がる時に痛い
椅子から立ち上がる時には必ずやや状態を前傾させて、そこから脚に力を込め、お尻が上がって徐々に腰が伸びていきます。
腰の筋肉には(寝ている時は別として)直立時に一番力がかかりません。脊椎自体が体重を支えているからです。
上体が徐々に前傾していくにつれ、上で説明した通り、てこの原理により徐々に腰の筋肉に負荷がかかる角度になり、その姿勢でグッと力を腰や脚にかけて立ち上がることになりますので、力を込めた瞬間が痛むのです。
で、左右のどちらかに痛みが偏っている時もあれば、腰の真ん中に痛みがあることもありますが、筋肉の緊張のある個所によって変わります。
緊張のある筋肉がつながる箇所の骨は可動性が悪くなり、通常の位置からズレたりします。
前屈後屈に関連してくるのは腰椎の一番下5番や骨盤の仙腸関節ですので、その近辺またはそれらの骨につながる筋肉に過剰な緊張箇所があります。
立ち上がる時に関連しそうなのは、背骨に添った脊柱起立筋群や多裂筋、骨盤につながる腰方形筋、お尻の上のほうの中殿筋。
これら筋肉の緊張をゆるめ、骨の可動性を回復させると、腰痛も治まってきます。
症例3)腰が張って前に屈みにくい
調子が悪くなると時々来てくださる方が、今回は腰が張って前に屈みにくいということでご来院なさいました。
前に屈むのを邪魔する要因としてチェックしておきたいポイントがいくつかあります。
まず大きな原因は腰の筋肉。前に屈む時には腰の筋肉は伸びなければなりませんが、腰の筋肉が緊張している(縮んでいる)ために伸びにくくなっているのです。
腰の脊柱起立筋群(一枚目写真)と、その奥にある腰方形筋(二枚目写真)も僕はチェックします。
次にチェックしておくのは脚の前の筋肉。
前に屈む時には太ももの前側から脛にかけて少し力がかかりますが、これらが緊張していると前に屈みにくくなることがあります。
青く塗られた部分、太ももの大腿四頭筋や脛の前脛骨筋です。
そして、腰椎のずれ。特に腰椎5番は体の前屈後屈の際によく動く箇所。ここがズレていると前屈後屈がスムーズにできず、場合によっては痛いです。
ハートマークのところが腰椎5番の棘突起。ここの位置や可動性、押すと痛みがあるかなどをチェックします。
今回いらした方は脊柱起立筋群の張りと腰椎5番のズレが顕著でしたので、そこを中心に施術いたしましたら、終わった後はスッと前屈できるようになってお帰りになりました。
秋口は気温が下がり始めますが、体が対応するのにタイムラグが出るので、体を冷やしがちになります。
腕が冷えれば首肩に、脚が冷えれば腰に症状が出やすいです。
この季節、寝る時は長袖長ズボンをおすすめします。
「体を反らすと痛い、伸ばせない場合」
腰が痛くて体を伸ばせない、反らすと痛いとかの場合は、腰の筋肉とお尻の筋肉が過緊張しています。
この場合腰の筋肉で関連しそうなのはというと、
●脊柱起立筋(一枚目写真)
胸腸肋筋・腰腸肋筋など背骨に沿うように走る筋をまとめてこう呼んでいます。
痛みを感じている所を押すと痛いことが多いと思いますが、押すと痛いところ(トリガーポイント)から離れて、お尻あたりにまで痛みが出ることがあります。
●多裂筋
上下の椎骨をつなぐように付着する筋肉。小さい筋肉です。
痛みを感じている所を押すと痛いです。
●腰方形筋(二枚目写真を参照)
腰のややわきのほうにある筋肉。ぎっくり腰の時、緊張している事が多いように思います。体を支えている筋肉ですので、ここに痛みが出ると、体をどう動かしても痛いということが多いです。
奥のほうにあり腸肋筋と一緒になっていて触り難いですが、わき腹の後ろ寄りのところあたりで、横から押すと痛いです。痛い場合は、横向きに寝て、やんわりと気持ち良い程度に横から圧してあげましょう。
そしてお尻の筋肉で関連しそうなのは中殿筋です。
お尻の上外側あたりにあり、腰の下のほうや仙骨あたりに痛みを出します。
写真の水色あたりが中殿筋で触れる場所。ちなみに仙骨あたりに痛みがあれば、大殿筋・小殿筋・梨状筋といった筋も関連してきます。
中殿筋は骨盤と大腿骨をつないでいますが、骨盤の骨の縁の辺り(水色のあたり)しか触ることができないんです。
ここが過剰に緊張している時は、腰の下のほう(写真の赤色のあたり)に痛みが出ます。腰椎と骨盤のつなぎ目、仙骨と腸骨のつなぎ目のあたりですね。
緊張側に体重がかかる時に痛みを生じるので、片足立ちのようになると特につらいですね。
通常ここが原因の腰痛施術では、ここのみならず腰の筋肉(脊柱起立筋、腰方形筋など)もよくほぐしてゆるめ、背骨と骨盤を調整いたします。
痛い側の膝を曲げて抱え、仰向けで少し体をひねると良いです。
(キン肉マンの都合上、膝を抱えられていませんが左側の中殿筋をストレッチしています。)
膝の曲げ具合、ひねり具合によって伸びる箇所が微妙に変わりますので、気持ちの良い位置を探して行いましょう。
但し、行うと腰が痛むうちはやらないようにしてください。
お尻のストレッチにはこういう方法もあります。
これも膝の角度などで伸びる位置が変わります。
伸ばしたいお尻(写真だと左)と反対の膝を抱えるこのような方法もあります。
立って前屈しても、座って前屈しても良いですが、一番楽だと感じる体勢で行い、一番楽だと感じる所で止めて、息を吐いて脱力することが大切です。写真は膝を伸ばしていますが、正座で上体を前に倒してだらりとさせても良いです。
体を丸めた方が楽に感じるでしょうから、仰向けに寝るなら、膝は立てたほうが楽な場合が多いでしょう。横に寝るなら丸めた方が楽でしょう。あまりないとは思いますが、うつぶせに寝るなら、お腹の下にタオルとか座布団とか入れて腰を高くした方が楽だと思います。
ちなみに、腰を伸ばせない腰痛の場合、体が前かがみになって、老人みたいな体勢で、左右どちらかに偏っていることが多いです。
偏りのあるときは、偏っている方とは逆の腰の筋肉が緊張しているのですが、体を起こしてしまうとそこに力がかかるため、力がかからないように体が逃げているのです。
ですから、この腰の筋肉の緊張を緩めるには、体を傾いている方へよりその姿勢を誇張するように、だらりと前屈してしまうと良いです。こうすると痛いところの筋肉が伸ばされて緊張がとれやすくなります。
症例 60代男性
ぎっくり腰になって5日、痛みが引かない。過去にもよくぎっくり腰になっている。いつも決まって右側に出る。今回は寒い中、川に入って、魚を捕った後に出た。
体を動かすと痛いが、特に伸ばすのができない。90度近い前かがみで、家族に連れられて来院。横向けでなら寝られる。
右の脊柱起立筋の腰のところ、右腰方形筋、右中殿筋に圧痛点(トリガーポイント)あり。特に腰方形筋の緊張が強い。
動かすと痛いので、横向けだけで施術。60過ぎの方なので、ポキポキの矯正は行わず、筋肉の緊張をとる操作、しかも右にだけ集中して行う。
施術後、体が伸ばせるようになって帰宅。